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日本ソーシャルワーク学会会長挨拶

日本ソーシャルワーク学会 会長
小山 隆

2022-23年度の会長を継続してさせていただくことになりました。改めて、これからの二年間よろしくお願いします。

この数年を振り返ると、社会全体が、コロナ禍、ウクライナ侵攻などといった世界レベルの厄災に見舞われ解決の糸口さえ見えません。ある意味ソーシャルワーク関係者がさまざま「チャレンジ」されているといえるでしょう。

1)コロナ禍に対峙する

2020年初頭から現在に至るまで世界中で猛威を振るう「コロナ」は今までの震災、水害などで培ってきた援助の在り方をある意味無効にしました。

大震災時に全国各地さらには海外からもボランティアが駆け付け、各自治体、専門職団体からの支援も被災地に貢献したことは記憶に新しいところです。

しかしコロナ禍の続く現在、各地で起こる大災害において、受け入れ自治体が「ボランティアは県内在住の方で新型コロナワクチンを接種済みの方限定」といった条件を付すようになってきています。ボランティアは欲しいが(コロナ感染のリスクから)外の人は来てほしくないといった矛盾した状態になっています。

「阪神淡路大震災」「東日本大震災」以来、さらに言えば100年前の関東大震災でも見られた「そこに厄災があると知ったからには現地に飛び込む」といった「つながり」を基本にしたかかわり方が機能しにくくなっています。感染症蔓延下では「できるだけつながらないことが必要」とも見える対応が迫られています。この「チャレンジ」に我々はどう答えを出していくべきなのでしょう。

例えば、クラウドファンデイングなどインターネット上の多様な支援・関わりの在り方も試みられ始めています。直接会わずにでもできることの検討と、それでもやはり直接会うための模索と両方が求められているように思います。

2)ウクライナ危機に対峙する

2022年2月24日のロシアによる全面的軍事侵攻によって、(それ以前から両国は緊張関係にありましたが)一気に世界が注目し何らかの形で関与することとなったウクライナ危機もソーシャルワーク界にとって大きなチャレンジといえるでしょう。ヨーロッパを中心に世界のソーシャルワーク関係団体も様々な見解を発信し、支援に向けて動いています。本学会も3月19日に会長声明を出しました。

https://www.jsssw.org/news/post-1226.html

この問題からどのような課題を見つけるかは各会員の宿題ともなると思いますが、すでに我々が表明している現状への「遺憾の表明」や「支援の呼びかけ」以外に何が研究者として、学会として可能なのでしょうか。他人事でなく考えていければと思います。

1.今我々が「ウクライナ」に対してできること、2.他国の社会情勢に我々ができること、3.日本の社会情勢に我々ができること等、多様な視点で答えを作っていくことが必要になるでしょう。ここでは詳細を論じることはできませんが、政治とのかかわり、社会情勢とのかかわりについて「学術団体」がどのようにコミットしていくかは「迫られている」のではないでしょうか。もちろん特定の政党を支持するといったことは学会ではありえないですが、世界情勢・社会情勢に目を背けることも許されないでしょう。

日本ソーシャルワーカー連盟の倫理綱領にも「社会に対する倫理責任」という項がたっています。そこには

  1. (ソーシャル・インクルージョン) ソーシャルワーカーは、あらゆる差別、貧困、抑圧、排除、無関心、暴力、環境破壊などに立ち向かい、包摂的な社会をめざす。
  2. (社会への働きかけ) ソーシャルワーカーは、人権と社会正義の増進において変革と開発が必要であるとみなすとき、人々の主体性を活かしながら、社会に働きかける。
  3. (グローバル社会への働きかけ) ソーシャルワーカーは、人権と社会正義に関する課題を解決するため、全世界のソーシャルワーカーと連帯し、グローバル社会に働きかける。

ではソーシャルワーク系のアカデミズムとしてどうかかわっていくのか、様々な宿題をもらったと考えます。

2016年度に新会長をさせていただくにあたって「会長就任に当たってー共同体としての学会の在り方を問う-」という文章を記しました。
この問いかけは現在も有効だと思っていますので、以下に再掲することとします。

会長就任にあたって

―共同体としての学会の在り方を問う―

小松先生、岡本先生、米本先生、高橋先生、川廷先生についで、2016-17年度の会長を務めさせていただくことになりました。二年間よろしくお願いします。ここでは会長就任にあたっての自らの確認の意味を含めて、学会活動についての基本的な思いを述べさせていただきます。

日本ソーシャルワーク学会は2016年度に年次大会が33回を数えました。会員数は600人程度と中規模ですが、福祉系としては「老舗」学会の一つかと思います。本学会の活動内容(役割)を大別すれば、三つにわけることができると個人的には考えています。第一の役割が「個々の学会員の研究成果の発信の場の提供」です。年次大会における自由研究発表や、学会誌への論文投稿の機会の提供が代表的なものでしょう。ある意味で学会に求められる最も基本的な役割といえるでしょう。また「場の提供」以外にも、会員研究奨励費の制度を設けることによって、個々の会員の研究活動のサポートも行っています。ぜひ会員の皆さんには今まで以上に積極的にこれらの活動をご利用ください。

しかし、学会が個々の学会員の発表の場だけであって良いのかと考えたときに、いささかの疑問も残ります。「学会誌」に投稿論文を載せ、「口頭発表」をするためだけに学会が利用されるとすればそれは残念なことというべきでしょう。学会は会員によって「利用」するための存在であるのではなく、あくまでも会員相互が学会を作っていく研究共同体としての側面を持ちたいとも思うのです。ここでは、詳細を論ずることはできませんが、アカデミズムが、「消費者主義」に親和性を持つのか「共同体主義」に親和性を持つのかという問いにもかかわる問題です。このように考えてくるとき、学会の第ニ、第三の役割が見えてきます。

第二の役割とは「学会が主導する学術的空間の提供」とでもいえるでしょうか。年次大会における学会企画シンポジウムや、大会とは別に行われる学会セミナー、さらには共同研究グループの主催などがそれに当てはまると思います。ある意味で、「研究活動」を細分化していく傾向の強い第一の活動に対して、集約し深化させていこうという思いも込めた活動群です。油断すると蛸壺化しかねない状況に置かれている各会員に(パターナリスティックとの誹りを受けたとしても)、時々に大切なテーマについて皆で考えていくという場の提供ということもしていきたいと思うのです。

以上が会員と学会の関係に焦点を当てたものであるのに対して、本学会はその初期より、第三の「役割」を意識してきました。それは、会員のみに限らない「広く福祉界、社会への貢献」とでもいうべき活動です。本学会は早い段階から「辞典」や「事例集」等の刊行をしてきました。学会としての研究成果の社会福祉界との共有・蓄積の努力といってよいでしょう。さらに最近は「ソーシャルワークコラボ」といった形で実践現場の方たちとの協働の試みも始めました。会員に限らず、現場も含めた福祉界との連携も第三の努力として行われています。

もちろん、便宜上この三つに学会活動を大別しましたが完全に収まりきるものではありません。例えば、ソーシャルワーク理論は一方で個別具体的な実践現場との循環的関係が必要であると同時に、国際的な動向との関係も視野に入っている必要があります。その意味で、今年度から「国際委員会」を常設の委員会としました。今後の大きな成果が待たれます。また、広報や庶務といった学会活動を支える裏方セクションの存在ももちろん忘れてはいけません。まだ具体化の段階に入っていませんが、できれば他のソーシャルワーク系、福祉系学会との連携も模索したいと思っています。

いずれにせよ、「お金を払いサービスを利用する場」ではなく、「お互いが共同体の構成員として刺激し合い、知見を蓄積する場」でありたいと願っています。しかし現実には理想を持って作られた組織・活動も刺激がなければ必ず形骸化します。その意味では現在の本学会の活動も機能していない部分も多いかと思います。会員の皆さんの厳しい指摘と、学会への積極的参加をお待ちしています。

よろしくお願いします。

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